昔、平成中村座の海外公演で、『夏祭浪花鑑』をやっていて、
その舞台中継をNHKでやっていたことがあった。
たまたまその舞台中継をちらっと見ていて、
なんとなく”親殺し”の話だ、というのは知っていた。
だけど、どんな話なのかは全然知らなかったので、
今回すごく楽しみにしていたのだ。
実際見てみると、ほんと、骨太な話だった!
だけど、恋愛がらみの話は、あいかわらずツッコミどころ満載だ。
主人公(?)のボンボンで、磯之丞という若者がいるのだけど、
この若者と恋仲なのが、傾城琴浦という女郎。
だけど、傾城琴浦に横恋慕してる侍が、琴浦を奪おう奪おうと、
いろいろ磯之丞のところに仕掛けに来るんだよね。
そこに磯之丞を守る役目の三人衆がいるのだ。
この三人衆がやたら強いんだわ。
んで、ばったばったと敵を倒しているというかんじなんだよね。
だけどね、この磯之丞。めっちゃ浮気するんだよね!
ちょっと丁稚奉公してた店の一人娘とできちゃって、
その一人娘を連れて帰ってきたりするの。
そうしたら、琴浦がもちろん怒るじゃん。
すると、”上げ膳据え膳なのに手を出さないのは男じゃない”
とかいうのよ!すげー言い訳!すげー逆ギレ!
・・・てか、コレって文楽じゃない?
文楽の時代の言い訳も、現代の言い訳もおなじじゃないか。
かわってないのねー、男ってやつわぁ。
そして、メインの”親殺し”になっていくのだけど、
親を殺すのは磯之丞じゃない。
その守り役のひとり、団七という人。
この舅がすげー悪いヤツでさ!
団七が守ってる磯之丞を謀って金をだましとったり、
琴浦を連れ去って、言い寄ってる侍に渡して金に換えようとする。
そこで、団七は舅と言い争いになったりするんだけど、
この舅がもう、すごく悪い人なのよね。
普通の勧善懲悪の物語なら、悪い人=舅はやっつけられて終わり、
なんだけど、この話はそうじゃない。
いくら舅が悪い人でも、舅は親だ、ということで、
団七は舅を殺そうとはしない。めっちゃ我慢する。
舅にコケにされても、無理難題言われても、グッと我慢するのだ。
親殺しをした罪人の嫁子は罪人を竹鋸でひかなきゃいけない、
という掟があったみたい。
だからこそ、親殺しの罪は、すごく重い罪だったようだ。
だからだろうけど、ものすごくグッと我慢する。
だけど、ふとした瞬間に、団七は覚悟してしまう。
文楽って、ひとりの義太夫さんが声を変えていろんな人を演じるけど、
このシーンは、二人で掛け合いをしながら演じていく。
その耐える団七の演技がすごくて。
もう、吸い寄せられるようなすごい気迫と、演技だった。
さらに、実際に舅を殺していく場面になると、ほとんどセリフが無くなる。
背景に流れる祭り太鼓の音と、刀の効果音としてつかう拍子木だけ。
あとはずっと人形だけの動きで表現していく。
ここはここで、人形遣いさんの見せ場のようで、すごかった!
人を殺すと言うこと。
しかも、親を殺すと言うこと。
そのことに対する感情の動きがものすごかった。
現代では、こんな感情の動きをするような人がいるんだろうか、
とちょっと考えさせられたような話だった。
もちろん、人形の動きはいつもの通り綿密で、細かいのだけど、
ものすごいエンターテイメントさと、骨太さがあって、
いつもよりもまして、演技力が必要だと思ったし、迫力がすごかった。
ホントに面白い話だった。はー、濃密な4時間だったー。
そりゃ、歌舞伎になるだろうし、名作になるんだなぁ、と思った。
コレはホントに観に来て良かった!もう一回見たいぐらいだ。
ぜひ、いろんな人に見て欲しい文楽、芝居だと思う。
今度は歌舞伎で見たいなー。
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